「昔からこういう性格だから」と"強い"自分を納得させてしまう経営者へ。三人の子を一人で育てた女性が、コーチングで「大丈夫ですか」と聞かれ、涙を流した理由
今回は、自分の「周囲から怖がられる強さ」と向き合った女性クライアントのお話です。
会社で頼られてきた強さが、家庭では距離を生んでいると感じている経営者の方にも、重なるところがあると思います。
経営者にも重なる、あるシングルマザーの話
生きていくために働かなければならない。三人の子どもを守らなければならない。誰かに頼っている余裕なんてない。
彼女はそうやって「頑張る」ことで毎日を乗り越えてきました。結果、彼女はとても強い人になりました。しかし、その強さは、ときに周囲の人には「怖さ」として伝わっていました。
- 必要以上に強い口調になる
- 声を荒らげてしまう
- 周りの人が、話しかけることをためらうようになる
この人は、生まれつき怖い人なのでしょうか?私はそうは思いませんでした。
彼女は、誰にも利用されないように、自分を守るために「強い人」にならなければならなかったのです。
「大丈夫ですか」の一言で涙が出た理由
セッションのある日、私は彼女にひとつだけ聞きました。
「大丈夫ですか」
その瞬間、彼女の目から涙が溢れました。本当は、大丈夫ではなかった。頭では気づいていなかったそのことを、涙が教えてくれたのかもしれません。
ずっと言われ続けてきた言葉がありました。
- 頑張れ
- もっとちゃんとしなさい
- あなたがやらなきゃ
でも、ただ自分の状態を気遣ってもらうことは、ほとんどありませんでした。
人は、アドバイスをもらう前に、評価される前に、まず自分を見てもらえていると感じる必要があるのだと、私はこのとき教えられました。
会社での強さが、家庭では壁になる
彼女とのセッションが終わったあと、何人もの経営者の顔を思い出しました。
会社では、決断し、責任を負い、弱さを見せずに前へ進みます。その強さは、経営者として必要なものです。
ただ、その鎧を外す時間がないまま家に帰ると、同じ強さが今度は家庭との間に壁をつくります。
夕食の席で「今日どうだった?」と聞いても、当たり障りのない一言で会話が終わってしまう。妻との会話は、今週の予定確認と請求書の話だけで、気づけば一日が終わっている。
帰宅して玄関を開ける前に、家の中の空気を確かめてから入る癖がついている経営者の方もいます。
- 子どもに対して、つい口調が強くなる
- 妻の話を、評価やアドバイスから聞いてしまう
- 悪気はないのに、心の距離が広がっていく
「昔からこういう性格だから」と、自分を納得させておくほうが楽なのかもしれません。性格のせいにしておけば、変えようとしなくて済む。傷つかずに済みます。
でも、その納得の裏では、先ほどの女性とまったく同じことが起きています。

優しくなるのが怖い理由
ここには、少し厄介な仕組みがあります。
もし今までの強さをやめて、優しさを出してみたとします。それで、家族が自分のところに来てくれなかったら。以前のようには話してもらえなかったら。それを誰のせいにもできなくなります。
強いままでいれば、「自分の性格がこうだから」と理由をつけられます。ある意味で安心できるのです。でも、優しさを出して、それでも誰も来なかったら、自分を否定されたように感じてしまう。
だから人は、無意識に強い自分へと戻ってしまいます。怒っていれば、傷つかずに済む。攻撃していれば、攻撃される前に相手を遠ざけられる。
そのバリアは、自分を守ると同時に、本当に欲しかった温かさからも自分を遠ざけてしまうのです。
聞くことでしか、人は変わらない
彼女は、上司からも周囲からも、たくさんの助言を受けてきました。本人も、十分わかっていたはずです。
だから私は、最初から何かを教えようとはしませんでした。ただ聞きました。聞いて、聞いて、聞き続けました。共感できるところでは、共感を示しました。
彼女はそこで初めて、自分の話を聞いてもらえているという感覚を味わいました。すると、少しずつ余裕が生まれてきました。
十分に聞いてもらったあとで、私はひとつだけ伝えました。彼女は「そうですよね、私も言いすぎたかもしれません」と、自分の言葉で答えを見つけました。
人は、安心して初めて、相手の話を聞けるようになります。怖い上司の言葉は、正しくても届きません。でも、話を聞いてくれる相手の一言は、不思議と素直に受け取れるものです。
経営者の方が、社内で誰かに何かを伝えたいとき、家庭で子どもに何かを伝えたいとき、本当に足りていないのは正しさではなく、この安心であることが少なくありません。

家庭のすべてを、一人で背負わなくていい
人はすぐには変われません。頑張ることで自分を守ってきた人なら、なおさらです。だから、焦らなくていいです。
まずは落ち着く。次に、休む。それから、自分の中に少しずつ余裕を取り戻していく。
そうすると、以前なら怒るしかないと思っていた場面で、今日は疲れているから少し休もうという選択肢が生まれます。もっと頑張らなければと思っていた場面で、今日はもう十分やったと言えるようになります。
親だからといって、家庭のすべてを一人で背負わなくてもいいのだと、私は思います。子どもに伝えたい気持ちも、家族に対して感じる焦りも、自然なことです。
ただ、自分がどれだけ正しいと思っていても、それが相手に届くかどうかは別の話です。届けるために必要なのは、正しさを重ねることではなく、先ほど書いた安心のほうなのだと思います。
強さを手放すのではなく、選べるようになる
彼女は、強さを失ったのではありません。強さしか使えなかった自分から、優しさも選べる自分へ変わったのです。
それは弱くなったということではありません。むしろ、怖い自分でいなくても、自分を守れるほど強くなったということなのだと思います。
もし今、会社ではうまくいっているのに、家庭でだけ同じ強さが空回りしていると感じることがあれば、それはあなたの性格の問題ではありません。距離が少しずつ広がっていくのを感じていたとしても、それはあなたの接し方が間違っていたということでもありません。
ただ、バリアを外す時間と場所が、これまでなかっただけかもしれません。
投稿者プロフィール

- カリフォルニア大学サンディエゴ校卒業後、モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスなど、外資系金融機関でキャリアを重ねる。シンガポール勤務を機にコーチングと出会い、国際コーチング連盟(ICF)認定コーチ資格を取得。現在は、国内外の経営者・リーダー層を中心にセッションを行っている。






