部下や後継者に「なぜか腹が立つ」経営者へ:苛立ちの奥にあるのは「自分の頑張りが誰にも見えていない」寂しさかもしれません

今回は、職場の同僚への苛立ちを何度も口にしていた女性クライアントのお話です。

部下や後継者に「なぜか腹が立つ」と感じたことのある経営者の方にも、重なるところがあると思います。

この人、仕事が全然できないんです

ある女性クライアントが、職場の若い女性について何度もそう話していました。確かに、仕事ぶりに気になるところはあったのでしょう。ただ、話を聞いているうちに、私は少し違和感を覚えました。

そこまで気になるほどのことなのだろうか。なぜ彼女は、この女性のことを何度も話すのだろう。その背景には、仕事の能力とは別の理由がありました。

彼女自身も、三人の子どもを一人で育てながら、仕事と家庭を長年背負ってきた人でした。一方、その若い女性には夫がいて、子どもがいて、生活を夫と分担している。彼女の目には、その姿が「自分よりずっと楽をしている」ように映っていたのです。

「私はこれだけ大変なのに」

その気持ちが、苛立ちになって出ていました。

部下や後継者に、なぜか腹が立つとき

経営者の方と話していても、似た瞬間に出会うことがあります。後継者候補の若手が、自分ほど泥をかぶらずに評価されているように見える。役員会議で、楽な立場から意見だけを言う人に、必要以上に腹が立つ。

部下の失敗に、実力以上に厳しい言葉が出てしまう。本人は「これは指導だ」と思っていても、その奥に、比較からくる苛立ちが混ざっていることがあります。

嫉妬は、どうでもいい相手には起こらない

嫉妬は、どうでもいい相手には、なかなか起こりません。自分に必要ないものなら、そもそも気にならないからです。

彼女がその若い女性に感じていた苛立ちの奥には、「私も誰かに支えてほしかった」という気持ちがあったのだと思います。

頑張っても、頑張っても、ギリギリ。そういう毎日を長く続けてきた彼女が本当に欲しかったのは、もっと頑張るための方法ではなく、「私だって、誰かに頼ってよかったんだ」と思えることだったのかもしれません。

経営者の方が後継者や若手に感じる苛立ちも、同じ構造を持っていることがあります。自分がどれだけの重さを一人で背負ってきたか。それを知らないまま、若い世代が同じ椅子に座ろうとしている。

そう見えてしまうとき、苛立ちの正体は、能力への不満ではないことが少なくありません。自分の頑張りが誰にも見えていない。その寂しさのほうです。

厳しく当たるのは、遠ざけたいからではない

人の欠点を指摘する。強い言葉を使う。厳しく当たる。一見すると、相手を遠ざけているように見える行動です。

けれど、厳しくすることで、結果的に自分へ意識を向けてもらおうとしていることもあります。

本当は、良い意味で見てほしかった。認めてほしかった。「よくやっているね」と言ってほしかった。ただ、それだけだったのかもしれません。

「ちゃんと見てほしかった」と気づくまで

セッションの中で、彼女が話すのはいつも、その若い女性のことでした。何ができていないか、どこが足りないか。けれど、私が聞きたかったのは、その人の話ではありませんでした。

だから、少しずつ問いの向きを変えていきました。「その頃、あなたはどうしていたんですか」「誰か、手伝ってくれる人はいましたか」。彼女の話は、同僚の欠点から、自分がこれまで一人で背負ってきたことへと移っていきました。

三人の子どもを抱えながら働いてきた年月を、ひとつずつ言葉にしていく。話し終えたとき、彼女はこう言いました。

「そうですよね。私、ちゃんと見てほしかったんだと思います」

苛立ちの向こうにあったものに、彼女は自分の言葉で名前をつけることができたのです。

経営者の方が、後継者や部下の頑張りを認める言葉をかけられないとき、足りていないのは評価の正しさではないことがあります。

自分自身がまず、誰かに「よくやっている」と言ってもらえていない。その空白のほうです。

苛立ちを、消そうとしなくていい

苛立ちそのものを、悪いものとして押さえ込もうとしなくていいと思います。それは、自分の中で何かが満たされていないことを知らせる合図でもあるからです。

「なぜ私は、この人のことがこんなに気になるんだろう」と立ち止まってみる。その奥に、自分がずっと我慢してきたことが隠れていることがあります。正体が分かったからといって、苛立ちがすぐに消えるわけではありません。ただ、名前のついた苛立ちは、以前ほどまっすぐ相手には向かわなくなります。

自分の頑張りを、まず自分で認めること。そして、それを言葉にして受け取れる相手を持つこと。自分の中の空白が少しずつ埋まっていくと、部下にかける言葉も変わっていきます。

「よくやっているね」は、自分がそう言われたことのある人ほど、自然に口にできる言葉なのだと思います。

相手を見る前に、自分に聞いてみる

もし、特定の部下や後継者にだけ、なぜか腹が立つ。その人の能力以上に厳しく見てしまう。そんなときは、相手を見る前に、一度だけ自分に聞いてみてください。

「私は、この人に何を嫉妬しているんだろう」

もしかすると、そこには「自分も誰かに支えてほしかった」という、ずっと言えなかった気持ちがあるかもしれません。

投稿者プロフィール

濱島ゆき
濱島ゆき
カリフォルニア大学サンディエゴ校卒業後、モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスなど、外資系金融機関でキャリアを重ねる。シンガポール勤務を機にコーチングと出会い、国際コーチング連盟(ICF)認定コーチ資格を取得。現在は、国内外の経営者・リーダー層を中心にセッションを行っている。

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